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着飾る。世継ぎを生む。
王妃としては大切なのだろうが、いまいちしっくりとこなかった。
椎名は自分なりにやりがいのある仕事が欲しい。
だが、王妃が働くなど言語道断だ。
生まれた世界が違えば価値観も違う。
何かやることはないか、パンをかじりながら思案していた椎名だったが、思い出す。
「イオ様から耳にしたのですけど、近々王妃同士の交流があるみたいですね」
リアンナも知っていたのだろう。椎名の言葉で思い出し慌てた。
先に伝えなければならないところを、朝から一悶着あり忘れていたのだ。
「すみませんっ。忘れていましたっ」
「いいですよ。ひと月後くらいですか?」
「予定では。陛下の王妃さまは七十二人ですから、規模は小さいもののパーティーに近いものが開かれるんです」
「やることはお茶を飲んでお喋り?」
椎名は単直に聞いた。そこには面倒くさいといったニュアンスがある。
七十二人でお茶を飲みお喋り。ドレスや宝石で着飾った女性が集まるのだから、見た目は華やかかもしれない。
椎名も中身がお互いの足の引っ張りあい、いじめがなければ楽しめる。
(七十二人もいれば、馬の合わない人がいるのは当然ですけど……)
考えただけで、憂鬱である。
「王妃さま、顔に嫌って出てますっ」
「嫌なんですってば。いじられるのが好きじゃないですから」
「そんなこと仰られて……」
リアンナもあまり強く出ない。
彼女も女社会に生きているから、椎名の憂鬱な気持ちも理解できる。
同時に、嫌だからと避けて通れないことも知っていた。
「兎に角、笑って取り繕って下さい。喧嘩を売らないで下さい。でも、下手には出ない下さいっ」
「難題ですねー」
出来る限り上手くやろうとは思うが、異世界から来た王妃で、無知な部分が多いと自覚している椎名が、王の妻として歴戦の王妃たちと渡り合うのは難しい。
「陛下の恥にならない程度に頑張ります」
それが一番だ。
そのために、椎名も勉強している。
今日も午後は作法の勉強があった。
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