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右腕からだらだら血が流れ、ドレスを染めている。そのドレスもあちこち血が滲んでいて、ドレスを捲れば、脚にも傷が付いていると思われた。
倒れるイサナに飛び付いた際に、薔薇の棘で切ってしまったらしい。
「あらら」
椎名は間の抜けた声を漏らす。
見た目だけならイサナより重傷だ。
イサナは眉をしかめた。
普通痛いだろう。
他人の心配をしてやる状態でない。
「あらら、ではないだろ。こちらに来た時もそうだったが、おまえは……。いやその話はいい」
一人ごちて、上着を脱ぐと、上質な絹で出来たシャツの袖を引きちぎった。
手当てしてくれるらしいイサナを、椎名は不思議な面持ちで見ていた。
あれほど不機嫌そうだったのに、椎名が怪我しているとわかった途端、不機嫌さは相変わらずだが、怒りは形を潜めた。
「騒ぐな、巻けないだろ」
「私は大人しくしてますよ。ちょっと貸して下さい」
苦戦しているイサナの手から、椎名は布端を取り、自分で右腕を止血する。
利き手が使えないため、多少不格好だが、イサナがするよりましであった。
口と左手で器用に巻いている椎名に、イサナは驚いているようだった。
「手慣れているな」
「年の離れた弟もいますし、いたずらっ子相手に仕事してましたからねー」
椎名はにこりと笑う。
が、くらりとした。
血を流し過ぎてしまったらしい。イサナとはまた違う意味で貧血だ。
止血も十分でないし、イサナ共々治療が必要だとは思うのだが、動けない。
「陛下。こちらにいることは、誰かご存知でしょうか?」
「いや。仕事の合間に立ち寄ったからな、誰も知らんだろう」
共もつけずに一国の王が、ふらふらしていてよいものか。げんに体調を崩しているというのだから。
侍女もつけずふらふらしているのは椎名も同じなので、人のこと言えないが。
「リアンナが気付いてくれればいいんですけど」
「おまえ」
「はい?」
青い顔で振り返れば、休んでやや顔色の戻ったイサナが、座り込んだ椎名の膝裏に手を差し込み、抱えあげた。
「ちょ、陛下っ、なにを!?」
「運んでやるから静かにしろ」
「ぶっ倒れた人が何を言ってるんですっ」
椎名にしては珍しく声を荒げる。
イサナは構わず、椎名を抱えて歩き始めてしまった。
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