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その話題は、耳に鮹が出来そうだ。
椎名の夫、アールヴェース国王は椎名を含め七十二人の妻を娶っている。
所謂一夫多妻だ。
身分が高くなれば、妻の数も増す。
日本生まれの椎名は、はじめカルチャーショックは受けたものの、国の風習なんだと割り切るようにしていた。
「風習でも普通は嫌だろ」
「私と陛下はあれですし。周りが言う程気にしてませんよ」
よく七十二番目の、と言われる。
「シーナ。あれは嫌みだ」」
「分かってますよ。まあ、七十二番目とか中途半端ですよねー」
あっけらかんと応えれば、イオは面白げ。心は読めたとしても、椎名の反応を、イオは楽しんでいる節がある。
「シーナはお気楽だな」
そう言うと、イオは椎名の黒髪を一束摘み、毛先をいじる。
「短いなりに、リアンナたちが手入れしてくれてるんですよ」
アールヴェースでは成人女性が、髪を結う習慣がある。
寝起きなので、垂れたままだが、黒い髪は結婚式の時と殆ど変わりない長さ。
「りあんな? よく侍女と親しくなれるな」
「一カ月もあれば親しくなれますよ。こちらの生活は慣れない部分が多いですけどね」
「へえ。シーナ場合、こっちに来ての第一声が、あら、こんにちは。だろ」
「あれは驚いてつい」
目を覚ましたら、見知らぬ格好の見知らぬ人々に囲まれていた。
驚いて挨拶が口から滑り出た。
「普通は泣くか喚くかだろ」
「私が図太いって言ってます?」
友人たちに総じて、椎名はどこでも生きていけると、太鼓判を押されたくらいなので、図太い性格は否定できない。
あまりに椎名が暢気なので逆に、本当に異世界人なのかと訝しまれた。
「陛下も椎名で楽だったろうな。放っておいても何も言わないし」
椎名の髪を指に絡め、イオが翡翠の瞳を巧みに上目に見上げてきた。
椎名はふむと唸る。
ベッドで戯れる男女が二人。新妻の横に寝そべるのは、あろうことか義弟。
夫に放置され、夫の弟に懐かれる。
妙なシチュエーションではある。
「妙ってなんだ。俺に気に入られて不服なのか?」
イオは眉を寄せた。
口に出さなくても筒抜けなのは、椎名が分かり易いのではなく、イオが人の心を読めるからである。
アールヴェースの王族のみに稀に現れる能力で、現在はイオがそうだ。
「滅相もないです。嫌われるより好かれた方がいいですしね」
「好いてはいない」
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