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 すっかり忘れられていると思っていたので、意外だった。  王妃である椎名のあんまり過ぎる言葉に、一瞬時が止まる。  シグが、椎名から視線をイサナに移した。 「陛下、英雄色を好むとおっしゃりますがな」  明らかに咎めるような口調に、イサナは柳眉を跳ね上がらせる。 「手は出してない」 「出されてませんよ」  椎名ものほほんと賛同した。  初夜も何もへったくれもない。ドライアイス並みに冷え切っているのだ。  ほぼ一カ月ぶりに顔を見た。 「出すも出さぬも。ほったらかしとは何じゃ!」  椎名としては、ほったらかしで構わないのだけど。イサナに迫られても困る。 「忙しかっただけだ」 「忙しくとも女を蔑ろにするのは、けしからんのです」 「蔑ろになどしてない」  何やら喧嘩を始まった。喧嘩といっても親と子がするような可愛いものなのだが、一応話の種になっているので、椎名はイサナとシグに、割り込む。 「あのー。私は私で、楽しくやらせて頂いてますから」  毎日、美味しいものを食べて、きついコルセットを締められ、煌びやかに飾り付けさせられ躾られて、ふかふかのやたら広いベッドに眠る。一部、遠慮したいものもあるが、衣食住の面倒を見てもらっているだけで、十分である。  謙遜したわけではないが、椎名としては現状維持でいい。 「特に役にも立っていないのに、これ以上大切にされたら申し訳ないですってば」
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