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そんなところも兄弟そっくりだ。
イオも十年もしたら、こうなるのだろうか。どこか幼い王弟と目の前のイサナを照らし合わせてみたが、やはり違う。
気質が違うというか。間違ってもイサナは、椎名をからかったり、ベッドに潜り込んではこないだろう。
姿形や性格の一部が似ていても、別人なんだなと、改めて椎名は思う。
「なんだ、人の顔を見て」
「何でもないです」
コルセットの話は止めておいた。仮にも下着だ。成人男性に言うべきものでない。仕立て屋にでも訴えようか。
「あ、いけない。早く戻らないといけないんでした」
きっとリアンナが心配している。
立ち上がろうとしたところ、イサナに止められる。
「暢気なんだか忙しないんだか分からない奴だな。しばらく大人しくしてろ、傷口が開く」
「でも、何も言わずにうろうろしちゃってまして、たぶん心配させてます」
「おまえの侍女には言っておく」
「陛下、自分は休まないつもりですか」
椎名が怪我人として扱われているが、倒れかけていたのはイサナだ。
顔色だってよくない。
椎名は老医に、視線を投げた。医師の口から言って貰えれば、イサナとて少しは言うことを聞くだろうと考えたのだ。
老医は面白そうに椎名とイサナを眺めていたが、髭を撫でつけた。
「奥方のいうことは聞くものですよ、陛下」
イサナは嫌な顔をした。
「今日中に片付けなければならない懸案が幾つもある。休んでなどいられない」
仕事の鬼だ。
この調子だと倒れるまで働きかねない。今までどうやって働いてきたのやら。
「手伝える方はいないんですか?」
「戯言を。王の代わりを出来る者がいるわけないだろ」
「なら尚更、休んでいって下さい。陛下が倒れたらどうするんです。何も半日休めと言ってるわけじゃないんですから」
一時でも休めば、違う。
互いに根比べをするかのように食い下がっていたが、「こうしている時間も無駄です」と椎名の駄目押しで、イサナはようやく、もう一つのベッドに座った。
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