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イオはもぞもぞとベッドの中で寝返りを打ち、真っ直ぐ椎名を見上げる。
顔など見ずとも、心を読めるのに、イオはよく椎名の顔を窺い見るのだ。
「七十二番目だろうが何でも、王妃ってだけで贅沢三昧。私なんて、たまたま王妃になっただけですのにねー」
椎名はおどけるように言った。
他の王妃は、いずれも身分の高いご令嬢だったりする。椎名など本来、陛下の妻になど相応しくはない。
だが、お城に一室を与えられ生活は安寧、侍女たちにかしずかれている。
庶民だった椎名には破格の待遇である。
「そろそろ皺寄せがきそうですね」
ただより高い物はないのだ。贅沢するにはそれ相応な代価が必死である。
イオが椎名の膝の上で頬杖をついた。
「シーナにしては鋭いな。近々、七十二人の王妃の顔合わせだと」
「うっ。もしやお茶会ですか」
椎名の笑顔が初めて引きつった。
七十二人もの女性が一カ所に集まるとなれば、和やかとは程遠い。
男の世界が綺麗と言えば嘘だが、女の世界のどろどろさは始末に負えない。
引き気味の椎名をイオが脅しつける。
「陛下が夜伽に行ってないから、後宮は女たちの足の引っ張りあいで目も当てられない。そんな中に飛び込めば、シーナは簡単に餌食になるだろうな」
醜い人の争いを嫌うイオだが、この件は他人ごとであるからか、愉しげ。
椎名がどんな反応をするか、楽しみにしているのだろう。
イオの楽しみは椎名が困るのを見るという悪趣味なのだが、普段椎名を揶揄してものらりくらりとかわされてしまう。
その椎名が苦手する、女の世界。
だが、椎名は別のことを考えていた。
(陛下に子どもはいませんでしたよね)
七十二人の王妃がいるのに、子どもは一切いない。
それがさすところは……。
「シーナ」
イオが低い声で彼女を呼んだ。
椎名は我に返る。自分の身の丈に合わない思考を巡らせてしまった。
「その。イオ様、朝食にしますね」
意図的な話の転換は、イオには無意味な行為だが、椎名はあえて振った。
「何か持ってきてやる。シーナはさっさと着替えろ。昼飯にする気か」
「ええ。ありがとうございます」
イオが用意してくれるのだろうか。
「ーー王妃様っ、おはようございます。さあ、お召し替えの時間ですっ!」
イオが退室し、入れ替わりに扉から数人の侍女たちが押し寄せてきた。
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