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椎名付きの侍女たちは若い。
十五~十八くらいの娘だ。自分よりも若い娘に着付けを手伝って貰うのは、大人として気恥ずかしいが、致し方ない。
なにせ、王妃の装いは複雑過ぎる。
黒い豊かな髪を幾つも編み込み、頭の上で高く結い上げると、宝石で誂えた簪(かんざし)と大輪の花で飾る。
ドレスは海のような澄んだ青。どれも椎名のために用意されたものなのだが。
「苦しいー」
コルセットで、ウェストをこれでもかと締め付けられた椎名に、お洒落を楽しむ余裕などなかった。
ドレスと胸に膨らみを持たせるためとはいえ、胃がせり上がってくる不快感は相当である。消化器系を確実に痛めつけている。
貧乳を悔いたことはなかったが、胸が寂しいせいで、こうも絞られると、貧乳であることに嫌気がさす。
「王妃様耐えて下さい! ほら息を詰めてーー抜いては駄目ですっ」
「リアンナ、苦しいですって」
「駄目ですっ!」
毎朝、このやりとりを繰り広げている。
異世界だが言葉は通じる。召喚の恩恵だろうと言われたが、いくら言葉通じても、話が通じなければ意味ない。
リアンナは、王妃の弱音を無視し、えいやとコルセットの紐を結んだ。
鏡の中に、疲れた顔をした椎名と満足げなリアンナが映る。
「あとは化粧です! 王妃様の御髪とドレスに合わせるならやはり青がいいと思うのですが、どうでしょう?」
「お任せします。腰を絞りは兎も角、リアンナたちの腕は確かですから」
椎名が掛け値なしに誉めるので、侍女たちは誇らしいこと誇らしいこと。腕によりをかけて、椎名の化粧に挑む。
本来、王妃と侍女が親しげに口を聞くのは眉をひそめられることだが、椎名は異世界人であり、多目に見られている。
侍女がいなければ、椎名と会話してくれる王弟イオだけなのだし。
お喋りは得意ではないが、なにも喋らないのは味気ない。
騒がしい侍女たちの話を聞いているだけで、椎名はそれなりに楽しかった。
「ところで王妃様。今朝もイオ様がお訪ねしていたみたいですが」
不意にリアンナが話を振る。
鏡越しに見た彼女は眉を寄せ、なにか言いたげであった。
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