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王弟と王妃が一夜を過ごす。
完全に泥沼だが、椎名とイオの間には疑われるようなことは一切ない。
気がついたら、イオが椎名のベッドに潜り込んで、一緒に寝こけている。
「私の弟たちと同じ年頃のイオ様と、どうにかなる筈ないですってば」
侍女たちの杞憂に、椎名は笑った。
イオがどういうつもりで椎名のベッドに潜り込んでいるのかは、さておき、椎名は犯罪に手を出すつもりはない。
そうは言っても、立場上、好ましいことではないのも分かっていた。
「イオ様にはちゃんと注意しておきますから、大丈夫です」
「でもっ!! 王妃様の身に何かあったら、あのイオ様なんですよっ」
「馬鹿馬鹿しい」
冷ややかに吐き捨てられた台詞に、侍女たちはびくりとそちらを見た。
「い、イオ様っ」
「俺がシーナに取り入って、国家転覆を企んでいるとでも考えてるのか」
室内の壁に、イオがもたれていた。
外交官用の黒を基調とした服装は、イオを影のように見せる。
気がつけばそこにいる。
イオの登場の仕方に椎名はだいぶ慣れたが、侍女たちは肩を震わし、総じて怯えた表情を浮かべた。
イオは不愉快そうに目を眇めた。
この一ヶ月間に学んだことの一つに、王弟イオは物凄く人間不信であることと、城の者から恐れられているということがある。
溜息を飲み込み、椎名は侍女たちとイオに向けて静かに言い放つ。
「リアンナ。皆さんを連れて下がりなさい」
おっとりと気の抜けた話し方をする椎名だが、結婚式のごたごたのために、王妃の喋り方を身に付けた。正しくは、身に付けざるを得なかった。
異世界人なうえ人に命令することのない彼女だが、不思議と威圧感がある。
侍女たちは慌ててイオから視線を逸らし、失礼しますと足早に去っていく。
リアンナだけは迷っている。
まだ自分の仕事を終えていないからだろう。
「また一時したらお願いします」
椎名の駄目押しの一言で、リアンナも唇を噛み、退室した。
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