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 指定した時間ぴったりに、リアンナのみが部屋に戻ってきた。  残すは化粧だけなので、大勢で来る必要はない。  リアンナは礼を取り、顔を上げるが堅い表情だった。明らかに賓客用のソファーで、横になっているイオを気にしている。動きもぎこちない。  イオは無反応だが、きっとリアンナの心を読んでしまっているのだろう。 (うーん。堂々巡りってこのことを言うんですかね)  リアンナは化粧棚からクリームの入った器を引き出し、化粧を再開する。 「失礼します」  クリームが頬に塗られると冷たい。化粧特有の匂いが鼻腔につく。 「誰に見せるでもないのに、綺麗な恰好をしなくてはいけないって、王妃も大変ですねー」  社会人のマナーとして椎名も化粧をするが、それでも下地にパウダーを叩き、薄い口紅を引くだけ。家にいる時はすっぴんに動きやすい恰好しかしない。  色気もなにもないと言われるのは心外だが、まあ色気があるわけでもない。 「胸がないしな」  いちいちいらない返答をよこすイオ。  胸にばかり話を持っていかれると、王弟は胸フェチと勘ぐってしまう。  すると、イオに睨まれた。  心の中でイオと会話を成り立たせていたら、リアンナの目が三角になった。  紅筆を持つ手に力が入り、みしみし鳴っている。 「何を仰ってるんです! 陛下に見せるんじゃないですかっ!」 「陛下に?」 「もちろんです! 結婚式を挙げて一ヶ月、陛下は一度も王妃様の元に参っていませんっ! ゆゆしき問題です!」 「そうですかねー」  新参者の椎名は放って、他の王妃のところに行って……いないのだった。  イオの話を思い出す。 「公務やらに忙しいのでしょう。なにか手伝えればいいんですが、私の仕事ではないみたいですしね」 「王妃の仕事は着飾ること! それより大切なのが子どもですっ!」  椎名付きの侍女の中では最年長とはいえ十八歳のリアンナの口から、出る言葉ではない気がするが。  ここは異世界であり、貞操観念が異なるのだろう。 「子ども、ですか」  口に出してみても、椎名の中でいまいちイメージがわかなかった。  働く女性の増加などで日本は晩婚化している。椎名の友人も独身が多い。  しかし、アールヴェースでの結婚と出産の適齢期は、十代半ばであり、椎名の年齢では完全なる行き遅れであった。  リアンナが心配するのも無理ない。
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