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「でも。私と陛下は国が繁栄しますようにと、願掛けで結婚した仲ですし。陛下も期待していないと思うんですよ」
何百年も昔、アールヴェースは酷い内乱にあった。
そんな時、異世界からやって来た一人の少女が、当時の王子に手を貸し、内乱を治めたという。
国の救世主となった少女は王子と結ばれ、長らく国を平安に導いた。
御伽噺のような話である。
そして椎名は、国の平安を願った者たちにアールヴェースに召喚された。
「国も平和で陛下も素晴らしい方のようですし」
王イサナは、国民に好かれている。
椎名にもそれは直ぐに分かった。
イサナと椎名の結婚式には、国民全てが祝福していたといっても、過言ではないほど、祝福に満ちていたのだから。
溢れんばかりの歓声と祝福を今でも明瞭に思い出せる。
椎名の意見に、イオは薄く笑った。
「イオ様?」
不吉な感じの笑いはしないで欲しい。
イオと裏腹に、リアンナはにこにこしている。彼女はイサナ贔屓だ。
化粧を施しながら、器用に話す。
「陛下の素晴らしさを、王妃様に知って貰えて私も嬉しいです。願わくば、早くお二人の子どもが見たいです」
「リアンナ聞いていました? 私と陛下は願掛け結婚であって……」
話を聞かない侍女に、椎名はもう一度繰り返すが、リアンナは妄想にひた走っている。
自分の付いた王妃に王の子どもを生んで欲しいと思うのは、当然の願望だが。
申し訳ないが、椎名の身に余る。
相手は大国の王。外見内面、共々平凡な椎名が出る幕ではない。
口紅が引き終わったのを理由に、椎名はお腹を押さえた。
「リアンナ、お化粧が終わったなら朝食にしていいですか。このままだとお昼になりそう」
「そうですねっ! 用意してーー」
妄想から帰ったリアンナは、慌てて、朝食を用意に行こうとして、イオに先を越されたことを知り、眉をつり上げた。
身を起こしたイオの手には、いつの間にかバスケットがぶら下がっている。
「ごめんなさい。イオ様も食事はまだでしたよね。ご一緒にどうです?」
「お、王妃様っ!」
非難がましい声がリアンナからあがる。
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