0人が本棚に入れています
本棚に追加
「狭い」
それだけだった。
臭いという念もちらほら見え隠れしていたが、狭いに勝る感情ではなかったので、直ぐに打ち消された。
全ての客が乗車し終えたのか、列車は豪快に出発を告げる汽笛を鳴らし、ゆっくり車体を進め始める。
ガタンゴトン……
走り出して数十秒後、列車は隠していたジェットでもぶっ放したように、物凄い勢いで加速していった。
俺は慣性に逆らえずに後頭部を座席に強打した。
「いてててて……」
ふと、座席の狭さを再意識し、隣の男性を流すような横目で見た。
すると、男性は無表情で真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ俺のことを見ていた。
その顔から人間らしい表情は一切読み取れなかった。
何を考えているかさっぱりわからないその男性は、視線は全く逸らさず、俺のことを凝視して、右手をズボンのポケットに突っ込み、何かを取り出した。
最初のコメントを投稿しよう!