3783人が本棚に入れています
本棚に追加
「……少し、肥大が進んでます」
申し訳なさそうに風間<かざま>さんがあたしに話かけた後、ちらりと拓斗と美和子を見た
あたしはぼーっと青い光に照らされたフィルムを見る
半年前のカルテが隣にならんでいる
心臓が少し大きくなっているように見えるのは
言われたからなのか
それほど症状が進んでいるからなのか
「ドナーは?まだ見つからねぇのか?」
拓斗はいつにも増して低い声で話す
そのまま仕事に行くんだろう
白いノースリーブに筋肉のついた腕
巻き付いた様に彫られた蛇のタトゥー
<元ヤン>でしたと言ってるようなもん
下手すりゃヤクザだ
誰かと喧嘩すると、顔に大きな痣を作ってくる事がある
「…すみません!!!」
とてもじゃないけど医者とは思えない程、頭を低く低くさげた
「…そうか」
風間さんは本当に申し訳なさそうに、ゆっくりと姿勢を戻す
拓斗が暴走族の元総長だったと知ったのは風間さんに会った時
そしてどんな偶然か…あたしは拓斗と同じチームで、同じく頭をはっていた
(血の繋がる実の娘だったんだと絶望した…)
風間さんはそれはそれは拓斗に憧れていた
道を踏み外すキッカケも拓斗だったそうだ
…迷惑な奴
拓斗とたいして年も変わらないのに、ガチガチに固まって話をする
「拓斗先輩は、俺の青春だ」
<風間先生>と呼ぶと
「とんでもない!呼び捨てでかまわないから」と怯えられた
「……役立たず」
美和子は舌打ちをして風間さんを睨んだ
「ミイ!…悪いな風間」
美和子の男嫌いは昔から
あたしに近づく男は虫のように扱ってきた
刺し殺すような目線の美和子を拓斗が止める
こういう場面を見ると、2人の子供なんだなと思う
「い、いえ…」
風間さんは拓斗に対するものとはまた違う緊張を美和子に向けた
沈黙を破るように
ゆっくりと拓斗が口を開いた
握った手に力が入るのが分かる
「………それで、あとどれ位もつ?」
美和子はあたしの手を握った
美和子は一日、仕事を休んであたしのそばにいた
あたしの頭をなでた
「なですぎ。髪、抜ける」
「雛は禿げてもかわいいからいいの」
「…禿げたくない」
「拓斗から引っこ抜いて、埋めようね」
2人で笑い合った
最初のコメントを投稿しよう!