薄い壁のこの部屋で

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「ひな」 「雛、雛、ひな」 「雛」 …くり返し そんなに何度も名前呼ぶなよ …鳥みたいじゃん うっすらと目を開ける 心配そうな見慣れた美和子<ミワコ>の顔 「…飯も食わずにいつまで寝てんだ」 少し目線をそらすと 蛇みたいなギラギラした目をしてる拓斗<タクト> 前世はきっと爬虫類だったんだろうな… 虫とか平気で食べそうだし 「………」 返事をしない私を見て眉を潜める 短いため息をついて、小さく舌うちをした 美和子はあたしのおでこに そっとなでるように触れる 「今日はもう、ママたちいくから」 蛇とはまるで似合わない顔で笑う 「ちゃんとご飯食べてね」 「……」 「ね?」 美和子は何も言わないあたしに念をおす その笑顔に負けたように あたしはゆっくりと小さく首を縦に振った ほんの少しだけ目を細める 満足そうにニッコリと笑う 「じゃあ、いってくるね」 すぐに耳障りなふんっと鼻をならす音が聞こえてくる 「……ガキが」 「拓斗っ!」 さっきまでの優しい声とはまるで違う 美和子の咎める声 …好きでお前の<ガキ>に生まれたんじゃない でも、言い返さない 拓斗とはもう随分まともに口をきいてない この部屋に移った頃からだから …もう4ヶ月? 美和子は優しい顔をして「じゃあ、いくね」と、もう一度あたしのおでこに触れた 「じゃあな」 拓斗は腕を組んだまま あたしに背中を向ける 美和子も追うように部屋から出て行った こんな風に2人を見送るのは もう何度目になるだろう あたしは今日も 薄い壁に囲まれた この部屋にいる
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