薄い壁のこの部屋で

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「読み終わりそう?」 「うん。…もうちょっと」 ページをめくりながら、答えた パイプ椅子のキシキシとした音が聞こえる あたしの横の<いつもの定位置>にゆっくりと腰かける ちらりと横目で表情をうかがうと、それに気付いたようににこやかに笑った 「そろそろ読み終わるかと思って、他の本も持ってきたよ」 手元の紙袋を開いて中を見せる どっさりと入っている本の数々 「…そんなに読めない」 「そう?」 そうだ。 読書なんて無縁で生活してたんだから 本を開く時間があったら 喧嘩とかバイクとか ……まぁ、それは良いとして 「でも、元ヤンキーなのに割と良いペースだよね」 ……ズケズケと平気で古傷をえぐる 「…うるさい」 小さく言い返すとクスっと笑った ……いったいどこからそんな情報を? 見つけて、しめる 絶対 いつものように黒い革の手帳を開いて 何かを走り書きする 細い指が異常に綺麗に見えた 「…それ」 「ん?」 止まった手を見ながら、じっとあたしを見る こいつはいつもこんな風に、人の目を見て話す 「…いつも何書いてるの?」 「何書いてると思う?」 でた!得意のはぐらかし! 隙のない笑顔で笑う時は 絶対に本当のことを言わない わざとらしく短いため息をついて 手に持っている本を握りしめる 中西鯉太<ナカニシコタ> 表紙に書かれた名前を見つめた 「………変な名前」 話題が変わったことに、少し驚いたのか男の完璧な表情が崩れる 「ひどい。オリジナリティ溢れると言って欲しいな」 鯉太は本当の顔で笑った この顔の方がずっと良い
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