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鯉太とこんな風に
2人きりで過ごすようになったのは
1ヶ月前
8月
第一印象は最悪だった
「立花雛<たちばなひな>ちゃん?」
唐突に部屋にやって来た
あたしはその日、とても機嫌が悪かった
それはもう……とても
パイプ椅子を投げ付けたあたしは、とても病人に対するものとは思えないような力で押さえ込まれた
…後で見てみると、痣になってたし
拓斗以外に負けたことなんてなかったのに
……万全の体調でのぞみたかった
…悔しい
初対面のあたしに笑顔を顔に貼付けて言った
「先に言っておくけど、
俺は病人だからって
君を特別あつかいしないよ」
何て男だと思った
その日から何度追い返しても、
鯉太はあたしに会いに来た
あたしが1人になるのを見計らったように
中西鯉太
職業、小説家
何故あたしを知っているのか
何が目的なのか
聞いても全てはぐらかされた
「実のお兄ちゃんなんだ」
「王子様なんだよ」
「闇金に追われていて」
「こうみえて9才なんだ」
…アホくさい
しかも1つ1つのエピソードが長すぎる
(9才説は半日にわたって話続けた)
どう見ても20代後半のくせに
詮索するのが面倒になって今はもう聞いていない
胡散臭い男
無駄に整った顔に
一見完璧な笑顔をはりつけて
暑いはずなのにキッチリとスーツを着て
まるでセンサーがついているように
タイミングよく
この部屋へやってくる
話をする時は
眼鏡の奥の瞳で
ジッと人の目を見る
心の中を覗くように
一番嫌なのは
こんな胡散臭い男に
惹かれている
自分だ
今更
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