薄い壁のこの部屋で

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本を読みつづけ 気がつくと部屋は暗くなっていた 小さな窓から夕日が入ってくる 「電気、つけようか」 鯉太は立ち上がるとパチンとスイッチをつける 「すごい、集中力。 さっきからずーーっと見てたのに全く気がつかなかったね」 あたしが眉を寄せ、不服そうな顔をすると 機嫌を良くしたのか 「口、開いてたよ」と要らない一言を加えてきた 「うるさい!」 …こいつ性格が悪すぎる 「面白かった?」 伺うように首を傾げるポーズはどう見ても全く似合っていない 「……ん、まぁまぁ」 嘘。 本当はすごく面白かった 読書なんて無縁の生活をしてきたのに こんな風に楽しいと思えるなんて… 正直自分でとても驚いている 図書館で働く美和子の娘だったんだな、と思う (ちなみに拓斗は読書なんて無縁のスーパーガテン系の大工だ。 血がつながっていないことを祈る) 「…そう」 本心なんて全て見抜いてますという顔で、満足そうに笑う あたしは全く知らないけれど鯉太は<それはそれは有名な小説家先生>なんだそうだ (自分で言っていた) ミステリー ホラー コメディから ラブストーリーまで どんな幅の広さだ!って言うほど 数多くの本を出していた …悔しいけど、ラブストーリー以外は今のところ全部面白い 特にコメディは笑いを堪えるのに必死だった… 悔しい (悔しいのでラブストーリーに関しては、かなり文句を言ってやった) 読み終わった本を閉じ鯉太に渡すと、「次はこれかな」と少し薄めの文庫本を手にとった 「安心して、ラブストーリーじゃないから」 皮肉屋め -コンコン 鯉太から本を受け取ると 調度ノックの音がした 「立花さーん」 柔らかい女の人の声 あたしの担当をしてくれる早川<ハヤカワ>さん 「また、いらっしゃってたんですか?」 困ったような笑顔に変わる 「早川さんに会いたくてね」 ……こいつ 「そんな事ばっかり…立花さん怒っちゃいますよ。ねぇ?」 鯉太の話なんて全く心に響いていないように 体温計をあたしに手渡した 「……」 無言でそれを受け取る …あたしに振らないでくれ 鯉太はこれ以上ない位に面白そうな(底意地の悪そうな)顔をして、満足そうにあたしの顔を覗き込んだ 「ふーん」 …ふーんって何だ! 「かーわいいね。雛は」 言い終わるか、言い終わらないかのタイミングで肩パンチを食らわしてやった
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