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示された売り場はすぐに判った。というより判らざるを得ない、といった方が正しいだろうか。
がつん。
置かれた黒く巨大な衝立が仕切る其処は、明らかに東洋趣味の発露であった。
衝立は豪奢な螺鈿の細工で、番いの鴛鴦が並ぶもの。きっと庶民には想像もつかぬ値が付いているのだろう。
円卓や箪笥など全体に中国の調度が多い中、菊の目を引いたのは日本の小物ばかり集めた一角。
「あ…」
雛飾り、ままごと、貝合せ。
絹や塗りの高価なものに混じって意外な物が並んでいた。
「ん、これは?」
アーサーが指で突付いて訊いたのは、ビー玉だった。おはじきと一緒にされている処をみると、デパートの係すらどう使う物なのか知らないのかもしれない。
「ビー玉ですよ、あのラムネの瓶に入っているのと同じ…転がして、ぶつけて遊ぶんです」
「へぇ…随分感じが違うな。綺麗なもんだ」
硝子で出来たそれは、淡く光を弾いて緑にけぶっていた。
知らず見惚れていたら、ひょいと主人に顔を覗き込まれる。
「欲しいのか?」
「え、いえ…」
少し、懐かしくなっただけですから。
頬を赤らめ俯いた子供を、アーサーはそれ以上は追及しなかった。
やおら懐からメモを取り出して、ルートヴィッヒに渡す。
「お前達、此処に書いてある物を探してきてくれ。フランシスから頼まれてんだよ」
「はい」
「ペンに絵の具にスケッチブックに…『インビンシブルインク』?こんなもん一体何に使うんだ、あの野郎」
雇用主に気軽に買い物を頼む家庭教師も家庭教師だが、ぶちぶちと文句を云いつつ頼まれてやっている主人の方も大概だろう。
思ったより人が好いのだから困る、とは執事の言だ。
「さて、と」
二人が充分離れたのを見計らって、アーサーは店員を呼んだ。
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