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ぐいぐいと手を引いて行こうとするのを、フランシスが優雅にいなした。今しがた買って来て貰ったばかりの画材を抱えている。
「まずちゃんとお兄ちゃんに挨拶しないと。また拗ねちまうだろう」
「なっ、誰が拗ねるかー!」
「あー。お帰りアーサー」
居たのか。そう云わんばかりの気の無い口調に、がっくりと項垂れる主人。
その彼は放置して、家庭教師はさらに云う。
「菊ちゃんにも着替える時間あげないとさ」
それで余処行きの衣装に気付いたのか、まじまじと目の前のページボーイを眺めるアルフレッドだ。
菊がたじろぐ位の時間を掛けて観察した後、ひとこと。
「馬子にも衣装ってやつだな!」
「……ありがとうございます…」
「おいおい!可愛い子ちゃんに向かって何て事云うんだよ」
「ん?誉めたじゃないか」
「フランシス、お前減給な」
「うわひでぇ、俺のせいなの?」
「教育係が悪いからアルがこんなんになってんだろうが!」
「こんなん、って…自分だってそんなんじゃないか。アーサーのくせに生意気だぞ」
「はは、云えてるな」
「お、ま、え、ら、なー!」
「……サー・アーサー」
いつ果てるともない云い合いを静かな声が遮った。
ローデリヒだ。
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