六月某日

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 「うわぁ、よく似合うよ~」  「可愛いー!」  出発前。外出用のお仕着せを着た菊を取り囲んで、玄関ホールはちょっとした騒ぎになっていた。  「あの、首元がとても窮屈なのですが…」  「我慢なさい」  抗議をぴしゃりと遮って、ローデリヒは黒髪の子供の襟を直し続ける。  あぁでもないこうでもないと弄って、ようやっと得心したのか手を離した。  「いいですか、菊。馬車に乗っている間は、なるべく外の人間から見えるように座る事を心がけなさい」  「はい」  「サー・アーサーが乗り降りされる時は速やかにドアの側に…お放しなさいフェリシアーノ!」  指導の途中で執事はいきなり声を荒げた。後ろから忍び寄り子供に抱き着いた第二フットマンを引きはがして、こつんと一発お見舞いする。  「どうして貴方はそう落ち着きがないのでしょうね」  「え~、ちょっとハグするくらい」  「却下します。きちんと給料を受け取りたかったら仕事にお戻りなさい」  「ヴェー…」    残念そうに離れたフェリシアーノを一瞥し菊の方に視線を戻すと、今度は優男の家庭教師に捕まっていた。
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