六月某日

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 「…へぇ」  やがて前に押し出された彼を上から下までじっくりと眺め、アーサーは瞳を細めた。  多少居心地が悪そうではあるものの、着飾られ髪を撫でつけられた東洋の子供は文句なく愛らしい。  「悪くない」  誉め慣れぬのが恥ずかしいのか、執事が何か云う前に彼は照れ隠しの行動に出た。  自分の胸の辺りの高さにある小さな頭をくしゃりと掻き交ぜて。  「行くぞ」  傲然と胸を反らす。  表に出て主人を馬車に乗せ、御者台によじ登る菊を助けてやってからルートヴィッヒが向き直ると、ローデリヒは背後に居並ぶ使用人達にも聞こえる位に大きく深い溜息を吐いていた。  「いいですね。くれぐれも」  ちらりと視線をアーサーと子供に寄越し、また戻す。  「…頼みましたよ」  「あぁ」  子供を囲んでの皆のはしゃぎっぷりは、ホールの吹き抜けを通じて二階にまで聞こえていた。  気になって仕方ないのだろう、支度を急かすアーサーを引き止めるのに苦労したものだ。  あの主人とページボーイ。  自分ひとりでは些か荷が重い、と思わないでもなかったが、悲壮感すら漂わせる執事の言葉に頷くしかないルートヴィッヒだった。  「「行ってらっしゃいませ」」 --こうして、菊の初めてのお出かけは始まったのだった。
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