Diary

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 「アルの奴、こんなの何に使うんだ?」  「御自分で世界地図を書いてみたいんだそうです」  「あー。その意欲が結果に結び付かないから不思議なんだよな、あいつは……」  他愛ない会話を繋げながら、ふたり歩く。  菊は随分自然に返事を寄越すようになった、とアーサーは口許を綻ばせた。  かつての、萎縮と遠慮の見本の如き態度は主人という立場を抜きにしても可哀想に感じていたのだ。  英語が上達したからだけでなく、自分を含むこの邸の環境に馴染んできたからだと思えば、素直に嬉しい。  身分の差があるから肩を並べる事が無いのは残念だけれど--  そこまで思って、はて、と疑問に行き当たった。  「気になって気になってしょうがない、か」  「?」  「あぁ、いや何でもない」  今更ながら、先程のフランシスの言葉には何か含みがあったのではないかと訝しむ。  けれど、何故己がそこまで菊を気に掛けるのか、という根本的な事には気付こうとしないアーサーなのだった。
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