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と、妙にご機嫌なフェリシアーノがふと小首を傾げた。
「何かおかしくない?」
指差した先。
言葉が終わると同時に、主人兄弟の乗る馬車の客車からにょっきりと、突然手が生えた。続いて、金髪を煌めかせたやんちゃ坊主の顔が覗く。
「菊ー!こっちに来いよー!」
無邪気に手招かれたとて、飛び移る訳にもいくまい。
対処に困ってごまかし笑いを貼付けていたら、後ろ向きのアルフレッドの首が引っ込んで、すぐにアーサーの怒号が響いてきた。
「馬鹿アル、危ねぇだろうが!っていうか、何で普通に窓を外してんだお前は!?」
尋常ではない大音声だが、それだけ弟が心配だったのだろうと菊は唇を吊り上げて、はたと気付く。
確かあれは嵌め殺しではなかったか。
「窓、開けられましたっけ……?」
「ううん、開かないー。坊ちゃま、どうやってあのガラス窓壊したんだろうねぇ」
「……」
いつだったか、客車の天井板一枚で菊たち下級使用人の年収ぐらいの金が掛かっていると聞いた覚えがある。
主家の次男坊のやる事だから物申せる筈も無いのだが。
まだ続いているアーサーの叱り声を聞きながら、それでも不条理感でいっぱいの菊だった。
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