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農家の豚小屋や飼料小屋がぽつぽつと目立ち始めると、すぐに白く丈高い塔が見えてくる。
その塔の全体が現れる頃には、ヴァルガスの双子を思い起こさせるような暖かみのある煉瓦色の集落は目の前で。
木と積み石で造られた簡素な門をくぐれば、其処が今日の目的地、アーサー曰く『うちの傍の村』である。
横付けされた馬車を降り、揃って路地を進む。
兄と執事から散々にお小言を頂戴したアルフレッドは、二人の視線を避ける為にかフランシスの背にひっついて歩いていたが、村の中心にある広場に近付くにつれ普段の彼を取り戻していった。
「アル坊ちゃん、遊ぼう!」
「あぁ、ミサが済んだらな!」
「約束だぞ?今日こそ勝つ!」
「菊もね、贔屓は無しだからね?」
「えぇ」
三々五々、村の子供達がカークランドの一行を追い、アルフレッドを取り囲み始めたのだ。
見守る大人は彼等の馴れ馴れしい振る舞いを特に注意する事もなく、またアーサーも殊更に咎めない。
挨拶に来た住民に対し鷹揚に返礼する青年は貴族にしてはやけに垣根が低く、若いながらも立派な御当主だと人望厚いのであった。
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