安息日

10/10
前へ
/53ページ
次へ
 その頃アーサーとフランシスはと云えば。  「「………」」  隣席で意識を飛ばしているローデリヒを現実世界に戻す役目をどちらが負うか、無言でなすりつけ合っていた。  Ave Maria  Mater dei ……  唇が歌詞をなぞり、ほっそりした指は膝の上で見えぬ鍵盤を愛撫している。  瞳は説教壇の斜め後方のパイプオルガンを恍惚とねめつけて。  何かのきっかけで音楽の方へ気持ちが行ってしまうと、時折こういう事態になる。  しかも下手な邪魔を入れようものなら、暫し怨みがましく睨まれる事請け合いだ。  あぁもう、何でもいいから、とにかく早く終わらせてくれ!  二人はマイペースに過ぎる神父に念を飛ばすのだった。       †††††††  ようやく拘束が解かれ外に出た菊は、途端に襲った強い陽射しに眼をしょぼしょぼさせて少しく呻いた。  「眩しい、ですね……」  薄暗い建物に長時間居た身には刺激が強過ぎたらしい。  目許を両手で懸命に擦っていると、広場の賑やかな声に招かれる。  「遅いぞ!今日は菊もやる約束だったろ?」  男の子も女の子も。  下は言葉も覚束ない幼子から、上は十代前半くらいの年齢まで。  十人ほどがアルフレッドを中心にして菊を待っていた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加