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その頃アーサーとフランシスはと云えば。
「「………」」
隣席で意識を飛ばしているローデリヒを現実世界に戻す役目をどちらが負うか、無言でなすりつけ合っていた。
Ave Maria
Mater dei ……
唇が歌詞をなぞり、ほっそりした指は膝の上で見えぬ鍵盤を愛撫している。
瞳は説教壇の斜め後方のパイプオルガンを恍惚とねめつけて。
何かのきっかけで音楽の方へ気持ちが行ってしまうと、時折こういう事態になる。
しかも下手な邪魔を入れようものなら、暫し怨みがましく睨まれる事請け合いだ。
あぁもう、何でもいいから、とにかく早く終わらせてくれ!
二人はマイペースに過ぎる神父に念を飛ばすのだった。
†††††††
ようやく拘束が解かれ外に出た菊は、途端に襲った強い陽射しに眼をしょぼしょぼさせて少しく呻いた。
「眩しい、ですね……」
薄暗い建物に長時間居た身には刺激が強過ぎたらしい。
目許を両手で懸命に擦っていると、広場の賑やかな声に招かれる。
「遅いぞ!今日は菊もやる約束だったろ?」
男の子も女の子も。
下は言葉も覚束ない幼子から、上は十代前半くらいの年齢まで。
十人ほどがアルフレッドを中心にして菊を待っていた。
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