六月某日

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 「アルフレッド坊ちゃまが、ちょっと羨ましいですね」  「お二人だけの家族だしな…」  と。首筋がちりりとして、菊は肩を竦めた。  どうも、見られている気がする。  「?」  見廻すと、数人の御婦人がこちらを窺っていた。話の内容は聞き取れなかったが、東洋の子供を珍しがっている事は判る。  悪気は無いのだろうが、気持ちの良いものでもない。  視線を避ける為にルートヴィッヒの陰に入ろうとしたら、素頓狂な声が耳に飛び込んできて思わずびくりとする。  「おー奇遇やんなぁ!何しとんの?」  身なりの良い青年がアーサーに話し掛けていた。菊が驚いた事に、青年の後ろの従者はフェリシアーノに瓜二つ。  「…アントーニョ…お前、もう少し静かに出来ないのか」  「フェリシアーノちゃんは?今日は一緒やないん?」  「人の話を聞け!あいつなら留守番だ」  「え~ほんまぁ…折角ロヴィーノと並ばせて両手に花できると思たのに」  「…同じ顔の奴に囲まれて楽しいか?」  「うん、美人はなんぼ居っても構わんやろ。目の保養やん」  天国やで!  公言してにこりとしたその彼の目が不意に真ん丸に見開かれた。  咄嗟に隠れようとした菊だが既に遅く、見付かってしまう。  「なぁアーサー。あのちっこいの、お前んとこの?」  「あー、あぁ」  「こっち来てみ?何も怖い事あらへんから、な?」  ちっちっ、と小動物にするような手招きをされ、菊は恐る恐る前に出た。  主人とフットマンが立ち位置を変えなかった為、子供は必然的に挟まれる格好になる。
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