六月某日

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 「近くで見てもむっちゃ可愛えぇなぁ。俺、アントーニョいうねん。きみ名前何ていうん?中国人?」  屈託の無い質問と笑顔に、うろうろと視線を彷徨わせ困惑していた菊だが、アーサーが応える許可を与えたので、ようよう口を開いた。  「本田菊と申します--日本人です」  「うわ、しっかりしとんなぁ!ロヴィーノなんか、これ位の頃はろくに返事も寄越さんかったのに」  「悪かったな…」  それまで黙っていた背後の従者がぽつりと呟き、菊はさらに驚く事になった。  その子供の反応に気付き、アントーニョと名乗った青年が苦笑する。  「これ、うちのフットマンのロヴィーノ。アーサーんとこのフェリシアーノちゃんと双子やねんけど…」  ちょい、きかん気でな。  暗に『似てない』と仄めかす彼に、双子の片割れはむすりと不機嫌な表情のままだ。  いつも無駄に朗らかで、ふわふわした笑みを絶やさないフェリシアーノを見慣れている為か、同じ造作のロヴィーノの怖い顔は違和感の塊みたいで。  「……」  同じ事を感じているのか、ルートヴィッヒも眉を顰めている。と、場の雰囲気を変えるようにアントーニョが声を上げた。
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