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「う…碓井様!いらしていたんですか?」
学校が終わり急いで屋敷に戻ると驚いたことに碓井様がいらした。
「やぁ…奈瑠さん。元気だったかい?」
「あ、はい…。碓井様もお元気そうで何よりです…ってそれよりも、碓井様…突然どうしてこちらに?」
碓井様は前に軽く話したと思うが…父や兄が莫大な借金を残して疾走し、途方にくれていた私に手を差し伸べて下さった、この世界で唯一尊敬できる男性だった。
「君がこの屋敷で働いてもう1ヶ月経つのか…時の流れは速いものだね…」
碓井様は私を見下ろしながら目を細めた。
プラチナブロンドの長髪を緩く結び、上品なメガネの奥の瞳はどこか悲しい目だった。
「君は4人の主人をどう思った?」
「?…どうと言われましても私には分かりかねます。」
私がそう答えると碓井様は驚いた顔をしていた。
というか…一体碓井様は私に何がいいたいのだろうか。
「あの…碓井様。申し訳ございませんが、私…今から夕食の準備に取りかからなければならないのですが…」
私が真剣な顔つきの碓井様に恐る恐るそう伝えると碓井様はなぜか慌てたように言った。
「今日のディナーには私も参加させてもらうよ。みんなに伝えたいことがあるんだ。もちろん君にも…」
「私にも…ですか?」
「うん。それでは夕食を楽しみにしているよ!」
そう言って碓井様はどこかに行ってしまわれた。
本当に碓井様は不思議な人だ。
年だってまだ若いのに幾つかの会社を経営し、海外にまで事業を展開している。
しかも…私を助けてくれた時、彼は父の友人だと言っていた。
私には彼の救いの手を掴むしか方法はなかったが、よくよく考えてみるとあんな出来損ないのような父に碓井様のような人間が友達になるメリットなどどこにもないし…そもそもどこで知り合ったのかさえも分からないままだった。
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