だから語り創る

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▲▼  その日、午後三時、快晴。  なぜかとても強い懐かしさを感じていた、夏の午後。    日差しの眩しい空にあったのは青と白とバケツだった。  厚く暑い夏の雲の下を歩いていた時だ。  太陽の紫外線に暖められた頭骨が中身を程よく沸騰させ、思考を朧げにしていると、どこからか声がした。  僕はその声の方を見上げ、  見上げれば、  夏の空から降ってきたのが回転する青い青いバケツだった。  蒼穹よりも尚青く、白い雲とのコントラストを象徴するかのようなバケツは見事な放物線を描いて落ちてくる。  巷では空から女の子が降ってくることがよくあるらしいが、このような容器が落ちてくるケースを僕は聞いたことも無ければ見たこともない。  我が儘を言わせて貰えれば、関わりたくもなかったはずだ。  なのにも関わらず、夏の日差しに焼かれた両足は油を引き忘れた卵焼きよろしくアスファルトへと見事に焦げ付いて離れず、ただただ落下を続けるバケツを眺めていれば、それはやがて目の前に着弾し、同時に水の天幕が僕を覆った。  バンっと、走行車のボンネットに跳ねられたかのような重音。  跳ねられたのは巨大な水風船か何かだったのだろう破裂音。  同時に響き、順を追って飛びかかってきた水幕を避けること叶わず。  結果、僕の服は見事に上から下まで打たれて水浸しとなった。  このような状況を望んだつもりはないけれど、確かにその日は水を被りたい程に暑かった。  嫌になるほど夏であり、  好きになれない夏であり、  人の好き嫌いなど気にすることなくやってきた夏は容赦無く大地を焼いて、時に涼しげな風で一時の清涼を与えてから、再び猛暑の中へ僕達を突き落とす。  昔から太陽ほど人間の営みに対して影響力を持つ策士を僕は知らない。  だからそんな因業な夏の太陽に向けて僕が嘆息混じりで呟いてしまった。  それはまるで魔法を唱えるかのように、 「……雨でも降らないかな……」  と、出来損ないの雨乞いを呟きながら、両手に紙袋の紐を食い込ませてはノソノソと校舎の玄関口を目指していた。
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