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もう一度航に目をやると、航の肩を押していた木山が此方を向いた。
手を止めたアイツと視線が絡み合う。
向こうがどう出るか、俺が注意深く見ていると。
木山は訝しげに目を細めたと思いきや、器用に片方の口角を引き上げた。
「ッ……!!!」
ドクンと心臓が音を立てて鳴った。
と同時に目の前が一瞬で赤に染まる。
頭がグツグツと煮えたぎり、ここが体育館でなければ怒鳴り散らしているところだ。
─あの野郎…っ、こっちが手ェ出せねぇのをいい事に…!!
きつく睨めば、奴はさも興味をなくしたように視線を外した。
そしてあろう事か、いきなり中断されて見上げる航の頭を優しく撫でている。
優しく置かれた手のひらは撥ね付けられる事なく、気持ち良さそうに目が閉じられた。
噛み締めた唇から錆びた鉄の味がして、やっと頭が冷めてきた。
周りが元の色彩になるのをぼんやりと眺めていると、いつの間にか正面にいる水沢が困ったような顔をして見ていた。
「…何だよ水沢」
「亮介」
「だから何、」
「…ごめんな」
「………は?」
言葉に詰まりつつ聞き返すが、水沢は『何でもないよ』と笑って流してしまった。
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