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「今のお前に航は無理だ」
「………はぁ?!」
憮然とした態度で言われりゃ流石に象った笑顔も崩れる。
コイツの意味深な言葉の意図を探ろうとするが、全く掴めない。
先程よりも長くため息を吐き、木山は言った。
「二兎を追う者は一兎をも得ず、って知ってんだろ。今のお前はそれだ。お前は【今の状態】が心地好すぎて壊せねぇんだ。…違うか」
「…あー悪い。…全っ然意味わかんねぇんだけど」
「そうじゃねぇだろ。お前の場合、理解しているがしてねぇフリをしてるだけだ」
図星だった。
だけど此処で退く訳にはいかない。
航の事をどう思っているか、俺ばかりが根掘り葉掘り聞かれているから。
「お前にとって、航は何なの?」
少し瞬きをして、やがて慈しむように目を細め、
「航は特別だ」
と言った。
「…あっそ」
これ以上この場所に居たくなくて、俺は錆びかけたドアノブを廻すと、
「航なら裏庭だ」
これまたムカツク返事が返ってきて、ブッ壊す勢いでドアを閉めた。
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