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さらさらと木々が揺れ、葉が重なりあう音が暑さを和らげる。
大きな木の下、航は腕を頭に敷いて気持ち良さそうに眠っていた。
─うわ…これホントにヤバいって。
木漏れ日が射し込み、陶器のように透き通った肌。
メンチを切ってる時とは打って変わった、穏やかな顔。
茶色がかった瞳は閉じられていて、伏せられた睫毛は長い。
少し半開きの口、下唇がぷっくりとしていて。
首筋は汗で光っている。
「…っは、ぁ」
息をするのも忘れるくらい、航の寝顔は可愛くて艶っぽい。
俺は起こさないように、そっと髪に手を伸ばした。
ワックスで固められた髪。
前に髪の話で『自分の髪は柔らかくてなかなか立たないんだ』と言っていた。
休日に航の家にお邪魔した時、頭を撫でると柔らかかったのを思い出す。
頭から徐々に下りていき、汗で少し火照った額、目元、柔らかい頬っぺた、そして。
手は唇に到達する。
「…、………」
息を押し殺して親指で上唇をなぞる。
するりと滑って、ドキドキしながら指に少し力を加えると、ふに、と何とも言えない感触にクラリとした。
あまりの柔らかさに、なかなか指が離れない、いや、離したくない。
漸く離して、今度は半開きした下唇に手を滑らすと。
「………っん、」
指の感触に少しだけ意識が戻ったのか、下唇が動いて、指を上唇と挟んで。
ちゅ、と吸い付いた。
心臓が爆発した。
今にも胸から突き破って出そうなくらい心臓が音を立てて、騒ぎだす。
吸い付いたのは一瞬で、それから解放された親指を直ぐに引っ込める。
まだ残っている感触を消したくなくて、両手で握り締めた。
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