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その日の帰り道。
送ると言って聞かない航と一緒に帰っていた。
雑談してるのに、航を見る度にさっきの事が甦ってきて、いつの間にか俺は録な返事も返せなくなっていた。
「…介、亮介!」
「っ…、はっ。な、何?」
「…何じゃねぇよ。お前今日なんかずっと変だぞ。悩み事なら隠さず言えよ」
「や、ホント何もないし、ってちょ…っ、航!」
言い終わる前に航が俺の腕を掴んで来た道を引き返した。
抵抗を試みたが引き摺られるようにずんずんと歩かれて、抵抗を止めて仕方なく航に任せて歩き出した。
着いたのは海辺だった。
夜なのでそこは静かで人気もない。
航は砂浜まで俺を引っ張ると、そのままどかりと座り込んだ。
「…で?何があったんだよ。言っとくが『何でもない』とか『大丈夫』は無しな」
わざわざ静かで俺達以外いないところまで連れていくなんて、敵わないなって思う。
俺は口を開いた。
「………特別」
「………え?」
「特別、になりたいって思ったんだ。俺も」
お前の、とは言わないけど。
こんな気持ち知られちゃったら、それこそ俺壊れちゃうから。
航、お子ちゃまで鈍感だし。
きっとわからないだろう。
「学校で航が言ったじゃん。木山に特別って思われて嬉しいって。俺、そんな奴いねーし」
「俺は亮介も特別だぞ?」
「本当?」
「ったりめーだろ!俺達ダチだろ?!」
拳まで握って強く頷いてくれるのは嬉しい。
でも。
─『亮介も』ってことは木山もって事でしょ?
アイツだって航とツルんでいたのは俺より長いし、それは当然なのかもしんないけどさ。
「………じゃあさ、今だけ…」
俺は航の背後に回って両腕を伸ばし。
シャンプーの匂いのする髪に顔を埋めた。
「…このままで居させて」
「亮介…?」
すり、と鼻先を擦り付けると、航は何も言わずに俺に背中を預けて、目の前にある両腕を包み込むように触れた。
「………航………」
─ごめんな。
俺、お前の一番の特別になりたいんだ。
俺はあの時からずっとお前だけだったからさ。
なぁ………航。
今だけは、
俺の事だけ考えてくれよな。
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