第2章 * 想いの罠

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だけど、昨日の事が 頭にチラつく。 幼なじみといえど、 『文也』と呼ぶ綾文に、 『世鈴』と呼ぶ茅世。 お互いが下の名前で 呼んでいた。 小さい頃から呼んでいたなら、仕方ない事かもしれないが。 それでも、 俺が抜け出せない段階を 確実にアイツは越えている。 ただの嫉妬かもしれないが、 それは事実だ。 でも、小さい頃から一緒にいるなんて、ただのハンデだ。 俺は短期間でも綾文を――…。 「…那雲君?」 ふいに頭上に降りかかる声。 俯いていた顔を上げると、 同じクラスの女子がいた。 「大丈夫? 元気ないの?」 安い上目づかいに イラッとくる。 「別に、平気だけど」 興味なく目をそらしたのに、 女は離れる様子がない。 めんどくせぇ。 綾文は絶対に、こんな下心 持って近づいたりしない。 ひとりひとり平等な気持ちで 接している。 ――初めて綾文の顔を見て、 思わず近づきたいと感じた 俺とは違って。  
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