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第一冊「出会い風」
列車は僕を起こすかの様に体を揺すり、目覚まし時計の様に轟音を響かせる。
そして、遠くなっていた意識が体へと戻る。
「うっ……。」
僕は目覚め動めくが、まだ脳が正常に可動していない。
でも『また同じ夢を見た』という事だけは、朧気ではなくしっかり頭の真中に残っていた。
そして、不思議な事にそれが当たり前の様に感じている僕がいる。
何だかのテレビ番組で聴いた事がある。
『夢』というものは不確かなものであり、また脳内に強く残っている物を映像で出力したものらしい。
専門的用語で言うなら、それを『レム睡眠』というらしい。
レム睡眠は脳が活動しながらも体はスリープ状態にある事で、またその対義語を否定形である【not】を付けた『ノンレム睡眠』というそうだ。
ノンレム睡眠は、体も脳内もスリープ状態なもの。
つまり完全なる睡眠の事を指すらしく、その場合夢は見ないのだという。
要は、僕がこの数週間の間にレム睡眠を繰り返し、また脳内が同じ記憶の断片を入力し、映像として出力し続けているという事だ。
これもテレビ番組で小耳に挟んだことなのだけど『夢』という物は、さっきも言った通り不確かな物であるという事だ。
これは元々、『夢をみた事は覚えているのだけど、内容を覚えていない』という事から論じられている事である。
理論的にも『何か理由がなければ夢の記憶は残らない』とされているらしい。
つまり、僕がこの夢を見るのには何かしらの理由が有るのと思うのだ。
でも、それ自体不確かな物であって、手掛かりなど僕は何だ持ち合わせていなのであった。
「……そういえば、僕は引っ越したんだった。」
まだ精密に活動しない脳をフル回転させ、今一度記憶を遡り、一つの話に繋ぎ止めていく。
今を。
今までの事を。
*
夢を見始めるようになってから数日は、あまり気にしなかったものの、回数を重ねる度に僕はその夢が気になって仕方がなくなってしまった。
でも、その景色を探す事は困難だとか何だとかいう前に、僕にとっては不可能な事だった。
僕は目が見えない。
所謂『盲目』という奴だ。
何時から見えなくなったか分からない。
そして、何時まで見えてたかも分からない。
叔父さんからは幼い時に見えなくなったとだけ聞いている。
そんな状況を悔やんだりしないけど、僕自身の事を僕自身だけが知らない事を、理不尽に思う。
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