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人形が男の射撃の腕をそう褒める。
相手は獣。その移動速度は非常に速いうえ、とても俊敏だ。
そんな奴に銃弾を命中させる事がどれだけ難しい事か、この人形は知っているのだ。
男は人形の言葉には何のコメントも返さずに、突然の事に唖然としている少女のもとへと歩いて行く。
「怪我はないようだな」
現状を確認するために一言声をかける。
少女である事だけしか認識していなかったため、服装に目が行っていなかったのだが、よくよく見るとおかしな格好をしている。
いや、別に変では無いのだ。
だが、時代錯誤ではある。
少女の服装は和服だったのだ。種類なんてよくは知らないが、浴衣のようなものだ。
現代の日本では普段着に和服を着用している人は、殆どいなくなったと言っていいだろう。
普段着はたいてい、洋服だったりする。
そちらの方が比較的簡単だからだ。
それに昔の女性は風呂に余り入らなかった、若しくは入れなかったと聞く。
「あ、あの……今の貴方が?」
少女はおずおずと男に尋ねる。
未だ状況が飲み込めていない様子だ。
「ああそうだ。俺がやった」
「でも、どうやって……」
「銃も知らないのか?」
「銃? 鉄砲の事ですか?」
「鉄砲とは、また古風な言い方をするな」
少女のその言い方に、思わず笑ってしまう。
「もしかして、それが鉄砲なんですか? 初めて見ました……」
男の手にある小銃を見て、少女はそう呟く。
このご時世、銃を見たことがない奴なんて珍しい。一体何処の箱入りお嬢様だ。
男は目の前の少女を訝しみながら見ていると、少女は真っ赤になった。
「あ、ご、御免なさい! 命の恩人にお礼もまだ言ってませんでした!」
そう言ってあたふたし始める少女。忙しい娘だ。
少女は立ち上がると、裾についた砂を手で払ってから頭を下げる。
「先程は危ない所を助けて戴き、本当にありがとうございました」
「別に気にする必要はない。俺は只、自分の目的の為に助けただけだ」
嘘をつくのは嫌いだ。それに直情的に生きて来た経緯もある為、本当のことを言う。
「ご謙遜を。私の名前は九重菖蒲です。よろしければ、貴方のお名前も教えてください」
目をきらきらと輝かせて、少女は男にそう尋ねる。
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