何処の誰ともわからぬ者、何処と分からぬ場所

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鼻で笑って、信和は言う。 「フン、俺にとってはあいつはオーエンであるという事に変わりはないのだがな」 「ありゃりゃ、随分と懐かしい名前が出て来たものでチュね。もう何年前でチュか。製作者はもう二十五を超していた筈でチュからね、ざっと十年くらい前の話でチュか」 それを聞くと、もう何も言わなくなる。 あいつは幸せになったんだ。 あいつは想い人と、結ばれて幸福な生活をしている。 子供が出来たかどうかは知らない。どんな職業に就いたのかも。 そもそも、あの事件以後、信和は湊谷の話を聞かない。 面白そうだったから参戦しようかとも思ったのだが、あいつが叫んでいるのを見て、止めた。 手を出しては、後で殺される。 それに、自分とは意気込みが全く違ったのだ。 決死。まさにその言葉がふさわしい。 死線を潜り抜けて、体に多数の傷を負いながらも、圧倒的に数で劣る状況を打破したのは非常に印象的だ。 生きる事に必死、生きる事に前向き、生きる事に対して希望を持っていた。 かつては自分と同じような死者の目をしていたというのに。 愛と言うのはそれほどまでに凄いものなのか。 「チュチュ……懐かしいでチュか?」 「ああ、懐かしいな。幾年も前の記憶を掘り起こすなんてしなかったから」 「素直じゃ無いでチュねぇ……」 喉で笑うチュチュ。ピンクボールにしては随分とませている。蹴り飛ばしてやろうか。 本当に腹立たしい。只のピンクボールの分際で。 「仲が良いんですね」 菖蒲が振り返りながら笑いかけてくる。 何処をどう見れば仲が良い風に見えるのか、不思議でしょうがないのだが。 「チュチュ、そうでチュ。私と信和はツーカーの仲なんでチュ」 「黙っていろ、人形」 信和は腕に隠していた拳銃の銃口をチュチュに向けて命令する。 それをされてもチュチュは只「おお、怖い怖い」とへらへら笑うだけに過ぎない。 この人形は自分が銃を撃たないと言う事を確信している
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