何処の誰ともわからぬ者、何処と分からぬ場所

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まったく実に腹立たしい事だ。 今までにこの手の相手をしたことは何度かあったのだが、大体が虚勢であることは容易に理解できた。 銃を向けられた時の反応でわかる。銃を向けられた時、微かに怯える反応を示すのだ。自身の生命の危機を本能で理解しているからだ。 その類は足でも撃ってやれば鼻水を垂らしながら、必死になって命乞いをするのだ。無様に、必死に。 だがこいつは違う。そもそも、自分の命の危険なんて感じていないのだ。 だからといって自棄にもなっていない。実に落ち着いた風貌だ。虚勢を張るのが上手いだけか、それとも……。 なんにしても、この人形、あの乃木湊谷が作ったというのはあながち嘘ではないだろう。あの男の底意地の悪さがしっかりと出ている。 舌打ちをひとつすると、スリープガンを再び袖の内部に隠した。 というよりもどこまでこの道なき道を進むのだろうか。この娘、ちゃんと方角が解っているのか不安になる。普通、こんな山道の場合は、大体獣道などを通るはずだ。 「おい、本当にこの道であっているのか?」 信和は一応聞いておく。文字通り命綱はきちんとまだある。 「そんなに心配しないでください、信和さん。ほらもう……あそこです!」 そういった途端に駆け出した菖蒲。余程嬉しかったのだろう。まぁ、死にかけた以上は仕方ない。 彼女を追いかけて信和たちも駆け足になる。 すると、目の前に広がっていたのは、あまりにも信じ難い光景だった。
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