何処の誰ともわからぬ者、何処と分からぬ場所

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森を抜けてゆくと驚愕の光景が目に入ってきた。 おおよそ、自分が今までに見て来た常識とは異なる景色。 「何なんだよここはッ……!」 そんな言葉が口をつく。 それも仕方の無いことだろう。 目の前に広がっていたのは、昔懐かしい木材で作られた住居群。 信和が見てきた、コンクリートで覆われた頑丈なものではない。 まるで過去にタイムスリップしたかの様な感覚だ。 少なくとも、信和の知識にある土地の中でこんな建物がある場所なんて、せいぜい時代劇の撮影所くらいだ。 「この建物、いないはずの獣、魔法が横行する、自立型人形……成程成程」 チュチュは、信和の隣で面白いといわんばかりに喉を鳴らして笑う。くつくつと。 どうやら、ここが何処か理解しているらしい。 理解できているのなら教えろ、といいたい所だが、それをこの人形に聞くのは実に屈辱だ。 「信和さーん! 早く来てくださいよー!」 人里の入り口で少女が手を振り、信和と人形を呼んでいる。 ここが何処か分からない事に苛立ちを覚えながらも、信和は大人しく彼女についていくことにするのであった。 「まったく、こんな近くにあるのに道に迷うなんて、意外と信和さんって抜けているんですね」 微笑みながら菖蒲は言った。 「いや、迷っていたつもりは無いのだが」 「あ、もしかして妖精のせいでしょうか。可愛らしいのですけど、悪戯が大好きで困ってしまうんです」 「妖精? ここには妖精もいるのか」 「当然じゃないですか。無邪気で悪戯が大好きで……本当に困ってしまうんです」 妖精、といわれても思い浮かべるのは手の平よりも小さな、背中に羽根の生えた人間程度しか思い浮かばない。 そういえば、何処かの神話では悪魔だとかそういった類に分類されていた記憶がある。 「それは大変だな。誰か退治するような奴はいないのか?」 「妖精って幾ら退治しても復活するので、誰もやりません。面倒なんです」 「幾ら退治しても復活する?」 ますます分からない。なんで蘇るのだろうか。 「妖精は自然現象。自然が存在する限り、妖精も存在するんでチュ。ただし、馬鹿でチュけどね。それに人間よりも脆弱で脆い存在なのでチュ」 饒舌にそう語るチュチュ。なぜ知っているのか問いただしたい。本当に。
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