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なんにしても、華やかさはおろか生活感すらない彼の寝床には良い装飾品である。
兵器と情報媒体だけで埋め尽くされているのだから、この位の華やかさは必要だろう。
不釣り合いである事に変わりはないが。
尤も、彼自身この人形を見るたびに、自分はまだ人間であると実感するのだ。
それでも、何の為に生きているのかはさっぱりである事に変わりなく、そう言った意味では人間ではないのかもしれない。
社会的動物とただの動物の差は、一体何なのだろうか。
今、彼は本能だけで生きているが、もしこの状態で理性が本能を上回る事があれば一体どうなる事だろうか。
理性が本能を上回った結果の一つが自殺だ。
動物は本能的に死を恐れる。
死を自ら受け入れるのは人間だけだ。
男が動物である限り、そんな事は一切ないだろう。
だが、彼も考える葦だ。
もし自分の罪に怯えるようになったら、どうなるだろうかと考える事はある。
本能が理性に負けたら、自分はどうなるのだろうかと考えるのだ。
かつての友人――人形を貰ったオタクの事だが――彼の言葉もある。
覚悟があるのだろう?
最近になって意味が分かってきた。
当時の自分はなんて愚かだったのだろうか。
こんな簡単な事に気付かないだなんて。
それに比べて彼はどれだけの男だったのか。
考えても仕方ない。もう過ぎた事だ。
それにそのオタクだって男の事なんて忘れている。
記憶の片隅にすらないだろう。
本当に都市伝説となり始めているのだ。
そうして、運命の時は訪れる。
常識と非常識の先、あらゆる幻想が集う場所へ男は訪れる事となるのだ。
そこはまるでお伽噺の世界。
ファンタジーを現実にした場所。
忘れ去られた彼はそこへ訪れる事となる。
そこで、彼を待つのは何か、誰にもわからない。
虚ろな未来か、確信ある現か。
彼は何を選択するのだろうか。
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