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木々は青々と生い茂り、葉と葉の間からは柔らかな日差しが降り注いでいる。
そして最も大きな問題として、景色が違う。
何年も同じ場所に居ついていたら、そこがどんな場所だったのかくらいわかる。
どんな景色で、どんな木が生えてどんな草があってと。
移ろいゆくものとは言えど、人間の速度に比べたら随分とゆっくりな速度だ。
ここまで大きな変化を見間違える訳がない。
具体的には外を見ると必ずあった、巨大なご神木らしき樹がないのだ。
こんな事があるのか……男は目の前に広がる「異変」に驚きながら、その理由を考えていた。
その時だった。
「ちゅちゅー……よく寝たのチュ」
背後から声がした。
拳銃を咄嗟に抜き、その方向に突きつける。
だが、そこには誰もいない。
いや、そこにはあったのだ。
「チュ、寝起きに銃を突きつけられるというのは、どうにも気分が悪いね」
言葉を発していたのは、ぬいぐるみだったのだ。
オタクの友人からもらいうけた、あのピンク色のぬいぐるみがしゃべっているのだ。
普段、予想外の伏兵にも驚かない男が、目を大きく見開いて驚いている。
そりゃあ、そうだ。
『普通』なら、人形がしゃべるなんて考えられない。
男は幽霊を信じては無い。
依り代だかなんだか知らないが、そんなものに神様が乗り移って、会話が出来るなんて事を信じてない。
だが、知識だけはある。
依り代には人形を使うと。
昔、遠い昔に呼んだ漫画にあった夢落ちという奴に違いないと、思いたかった。
だが、これは恐らく現実。
だったらやる事なんて決まっているだろ。
「おい」男は得体のしれないそれに、拳銃を向けたまま話しかける。
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