常識と非常識の世界

6/10
前へ
/28ページ
次へ
木々は青々と生い茂り、葉と葉の間からは柔らかな日差しが降り注いでいる。 そして最も大きな問題として、景色が違う。 何年も同じ場所に居ついていたら、そこがどんな場所だったのかくらいわかる。 どんな景色で、どんな木が生えてどんな草があってと。 移ろいゆくものとは言えど、人間の速度に比べたら随分とゆっくりな速度だ。 ここまで大きな変化を見間違える訳がない。 具体的には外を見ると必ずあった、巨大なご神木らしき樹がないのだ。 こんな事があるのか……男は目の前に広がる「異変」に驚きながら、その理由を考えていた。 その時だった。 「ちゅちゅー……よく寝たのチュ」 背後から声がした。 拳銃を咄嗟に抜き、その方向に突きつける。 だが、そこには誰もいない。 いや、そこにはあったのだ。 「チュ、寝起きに銃を突きつけられるというのは、どうにも気分が悪いね」 言葉を発していたのは、ぬいぐるみだったのだ。 オタクの友人からもらいうけた、あのピンク色のぬいぐるみがしゃべっているのだ。 普段、予想外の伏兵にも驚かない男が、目を大きく見開いて驚いている。 そりゃあ、そうだ。 『普通』なら、人形がしゃべるなんて考えられない。 男は幽霊を信じては無い。 依り代だかなんだか知らないが、そんなものに神様が乗り移って、会話が出来るなんて事を信じてない。 だが、知識だけはある。 依り代には人形を使うと。 昔、遠い昔に呼んだ漫画にあった夢落ちという奴に違いないと、思いたかった。 だが、これは恐らく現実。 だったらやる事なんて決まっているだろ。 「おい」男は得体のしれないそれに、拳銃を向けたまま話しかける。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加