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「チュ……?」
ぐぐっと伸びをしていたそいつは、そのくりくりとした大粒の瞳を男に向ける。
「お前……なんで動いている?」
引き金に力を込めてそう聞いた。
言わなければ撃つという、無言の脅迫だ。
「デリンジャーを向けられたままじゃ、話す気なんて無いでチュ」
つんとそっぽを向いて人形がそう言うと、男は拳銃を天井にむかって一度発砲した。
「言え。さもなくば……」
「撃つ、でチュか? いいんですか? デリンジャーの装弾数はたったの二発。その内の一発を無駄にしてしまって」
こいつ……。
余計にいらつく。何故今握っている拳銃の事が分かるのだろうか。
「二十二の豆鉄砲じゃ私を仕留められないかもしれないのでチュよ? まぁ、私には敵対の意思はないのでチュがね」
チュッチュッチュ、と愉快そうに笑って言う人形。
「試してみるか?」
自分の腕に絶対の自信を持っている男は引き金に力をいれる。
「やめる事をお勧めするでチュ。私に無駄弾使うなんて、もったいなさすぎるでチュ」
人形がそう言った途端に男は引き金を引いた。
が、その前に人形はそのまん丸とした体を転がして避けた。
放った銃弾は只、木材で作られた壁にめり込んだだけ。
だが、この位の事は予想できていた事だ。
人形がデリンジャーという名前と、その装填数を言い当てた時点で。
当然、トリガーを引くのに十キロもの力が必要な事も知っていただろう。
だから、転がった人形に向かって、「もう一挺」の拳銃を向けた。
今度の拳銃はデリンジャーとは違う。
「チュチュ? 違う拳銃でチュね。これは予想外でチュ」
それを呟くが早いか、男は発砲した。
予想通り一発では当たらない。
だからこそ、何発も放つのだ。
一、二、三、四……数を追うごとに追い詰められていく人形。
そうして、最後の一発。
六発目だ。
それは確実に人形に吸い込まれて行った筈だった。
しかし弾かれた。
何かの「見えない壁」のようなもので。
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