-現実-

15/23
85人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
「ちと待っとれや。今、飯持ってきたるさかい」 「御飯っ!!」 「ははっ。やっぱ、美朱はいつまでたっても美朱やな」  笑い声を残し、ドアのない入口の奥へと消えていった。    翼宿は食事を運んでから思い出した。美朱が食す飯の量は、一般の人の数倍だった事を。 「ご馳走様でしたっ♪」 「―――よう喰うわ。寝起きで」 「ん?何か言った?」「いっ、いやっ。なんもっ?気のせいちゃうか?うん、そうや絶対に気のせいやっ。あは、あは、あははははは」 「ふ~ん……ま、いいけど」  会話が途切れる。  その空気は重く、次の話の糸口が見当たらない。 「―――あっ。あのさ、美朱」  無理やり空気を切り裂く。 「なして、こっちの世界におるんや?」 「え?」 「ほら。お前、鬼宿と一緒に自分の世界に戻ったはずやんか?せやのに、どうして」 「それは―――」  言いかけて言葉を飲み込む。 「それは?」 「それ、は……」  俯いたまま、布団を握り締める。 『素直に認めなさい。魏は…魏は、もう、戻ってこないのよ―――っ』 『美朱っ。魏は死んだんだっ』 『素直に認めなさい。魏は…魏は、もう、戻ってこないのよ―――っ』 『美朱っ。魏は死んだんだっ』 「それは―――っ」 「ま。ゆいとぉねぇならゆわんでもえぇわ」 「え?」  空になった椀をお盆にのせ、腰かけていた簡易椅子から立ち上がる。 「気が向いてからでえぇよ。どうせ、当分何処も行く場所あらへんのやろ?」 「うっ……うん」 「ほな、今日はゆっくりしとりな」  片目を閉じ、少しでも空気が張り詰めている美朱を和ませようとする。しかし、美朱はまだ俯いたまま。 「―――俺、隣りの部屋におるから。なんかあったら呼べや」  表情を曇らせ、背を向ける。 (……翼宿)  言わないと。 (…翼宿…)  今言わないと、このままずっと拒否し続ける気がする。 「―――すき」  微かな声だったが、それすら聞き逃さない。振り返り、まだ次の言葉を紡ごうとしている唇を見つめる。「―――た、すき―――」  言える。何故か、今なら言える。拒否し続けていた事を、素直に受け入れる事ができる。 「――翼宿…あの、ね―――」  盆を簡易椅子の上に置き、美朱の傍に立つ。すると、勢いよく服の裾を引っ張られ、そこに顔を隠すかのように美朱 は頭を埋めた。 「美朱?」 「聞いて…翼宿……」  止めどなく涙が流れる。 「魏っ、が」
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!