-現実-

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「魏?鬼宿がどないしたんや?」 「―――魏…が、ね…」  最後の方が声にならない。 「魏が…死ん、じゃっ…た―――っ」 「!?」  美朱の肩にまわそうとしていた手が止まる。  鬼宿が、死んだ。  それは翼宿にとっては信じられない事だった。  張り詰めていた空気が、また別のものに変わろうとしていた。 「―――んなっ」  乾いた笑みが漏れ、美朱の肩を叩く。 「なっ、何や、それ?嘘つくんやったら、もっと上手につかな。ほら、あれなら俺が教えたろか?もっと上手い、誰も  疑わへん嘘のつき方、教えたる―――」 「嘘じゃないっ!」  顔をあげ、声を張り上げる。 「嘘なんかじゃないのっ!本当にっ、本当にっ、魏はっ……死んだのっ」 「―――まじなんか?」 もう一度顔を伏せて頷く。 「―――夢なら覚めてくれんか」 「それはっ、あたしも…同じっ、だよ……」  何気なく呟いた言葉を聞き逃さずに答える。 「夢なら…あたしも、覚めてほしいって、思うよ。だけどっ」 『素直に認めなさい。魏は…魏は、もう、戻ってこないのよ―――っ』 『美朱っ。魏は死んだんだっ』 『キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』 「魏は死んだんだもんっ!あたしの目の前でっっっ!!」 「!?」  衝撃的な言葉に翼宿も言葉を完全に失った。    それから二人はただ流れる時間に抱かれて沈黙を紡いだ。 (暖、かい)  翼宿の胸の中。彼は美朱が壊れるほどしっかりと抱きしめてくれた。その温もりは、もう戻ってこない魏に心なしか 似ていて、ただ抱きしめられているだけだというのに涙腺が緩んできた。 (駄目。泣いちゃ、駄目)  今、この場で泣いたら理性が飛んでしまいそうで、自分が自分でいられなくなるようで。それが恐くて泣いちゃ駄目 だと自分に言い聞かせる。 (ここで泣いたら、あたし―――っ!) 「美朱」  柔らかく、昔を思い出す声、そして言葉。 『美朱』  
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