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掴んでいた手を離して、兄貴は無言のまま俺に背を向けて歩き始めた。
「兄貴っ・・・」
呼びかけても反応はなく、フラフラと夜の闇へ消えていく。
俺は追いかけることも出来ず、ただ突っ立っているしかなかった。
兄貴の姿が完全に見えなくなった所で足の力が抜け、近くにあったベンチへと座り込んだ。
「・・・何やってんだ俺」
叩かれた頬がじんっと痛む。
別に兄貴が嫌いだからとか、兄貴を困らせたくてやってるわけじゃないんだぜ?
兄貴のお荷物になりたくない。ただそれだけだ。
「泣きそうな顔しやがって・・・泣きたいのはこっちの方だっての」
誰に言うわけでもなく呟いて空を見上げた。
もうすぐ4月だってのに、吹付ける風は真冬並みに冷たい。
おまけに空は曇ってて、視界からも体感的にも寒さが体にしみやがる。
家に帰る気にも、その場から動く気にもならない。
この日、俺は生まれて初めて無断外泊ってやつを経験した。
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