終わりと思ったら始まりで

3/45
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
家の電話が鳴り響き、兄貴が受話器をとる。 どうせ何かの勧誘だろう。 それ位にしか思っていなかった。 「…え?」 受話器から漏れ聞こえる声は、何を言っているかまでは俺には届かない。 ただ、兄貴の声から勧誘の類の電話じゃないことだけは分かる。 二言三言、機械的に返事を繰り返す兄貴の後ろ姿 を見てなんだか嫌な予感がした。 受話器を置いても、兄貴はそこから動こうとはしなかった。 微かに震える肩は、決して寒さからきているものじゃない。 「…兄貴?」 俺の呼びかけに、ビクっと反応した兄貴はゆっくりと振り返る。 …その顔は、血の気が失せていて、目も虚ろだ。 おぼつかない足取りで近づいてきた兄貴は、突然ギュッと俺を抱きしめた。 「…暁(アキラ)。落ち着いて聞くんだ」 兄貴は、身体だけでなく声まで震えていた。 手を離したら崩れてしまいそうな、今にも倒れてしまいそうな程に。 「父さんと母さんが…」 心臓が大きく跳ねる。 水に落としたインクのように、じわじわと不安が広がっていく。 身体は動かないのに心臓だけは物凄いスピードで跳ね、煩いくらい響いていた。 兄貴の、俺を抱く腕に更に力が込められる。 「死んだ」
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!