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家の電話が鳴り響き、兄貴が受話器をとる。
どうせ何かの勧誘だろう。
それ位にしか思っていなかった。
「…え?」
受話器から漏れ聞こえる声は、何を言っているかまでは俺には届かない。
ただ、兄貴の声から勧誘の類の電話じゃないことだけは分かる。
二言三言、機械的に返事を繰り返す兄貴の後ろ姿 を見てなんだか嫌な予感がした。
受話器を置いても、兄貴はそこから動こうとはしなかった。
微かに震える肩は、決して寒さからきているものじゃない。
「…兄貴?」
俺の呼びかけに、ビクっと反応した兄貴はゆっくりと振り返る。
…その顔は、血の気が失せていて、目も虚ろだ。
おぼつかない足取りで近づいてきた兄貴は、突然ギュッと俺を抱きしめた。
「…暁(アキラ)。落ち着いて聞くんだ」
兄貴は、身体だけでなく声まで震えていた。
手を離したら崩れてしまいそうな、今にも倒れてしまいそうな程に。
「父さんと母さんが…」
心臓が大きく跳ねる。
水に落としたインクのように、じわじわと不安が広がっていく。
身体は動かないのに心臓だけは物凄いスピードで跳ね、煩いくらい響いていた。
兄貴の、俺を抱く腕に更に力が込められる。
「死んだ」
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