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白魚のような手でティーポットを持ち、ゆっくりとカップに紅茶を注いでいく。
綺麗な指だった。
仕草のひとつひとつが、まるで絵画が動いているかのように美しい。
「当然でしょうね。こんな変な家に引きこもっているんですから」
「どうして……傾いた家に? あ、ありがとうございます」
すっ、と綺麗な手つきのままで、ソーサーに乗せられたカップが差しだされる。
傾いたこの家で使うことを考慮されているのか、持ち手の反対側のふちが高くなった歪な形をしていた。
普通はティーカップをわざわざこんな変なデザインになんかしないからおそらく特注だろう、金持ちっぽいし。
そもそも家だって特注のようなもんだ。
金がありそうだし、欠陥住宅なら作りなおすだけの財力はあるはず。
同じように差しだされた角砂糖とミルクのうち、ミルクだけを入れてかき混ぜる。
いい香りのする紅茶だ。きっと茶葉も高級なものなんだろう。
彼女も紅茶に角砂糖をひとつだけ落として混ぜ、それに目を落としながら呟く。
「私、ずっと傾いてないとだめなんです。三半規管がやられてて、平衡感覚がおかしいの」
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