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「実はそれ……私の手作りなんです」
「え、これが? マジですか?」
てっきり市販品かと……
驚いた俺を見て、彼女ははにかむように笑った。
「えへへ、人に振る舞うのは初めてです。お口に合うかちょっと心配でした」
「いやー、これお世辞抜きにかなり美味いですよ」
やっぱり手先が器用なんだろうか……
味はもちろんのこと、形も綺麗だし、売れるレベルだと思った。
人に振る舞うのが初めて、というのが少し引っかかるが。
「ねえねえ吉村さん、お願いがあるんですが」
「は、はい? なんでしょう」
「俺の友達のアホが、まだこの屋敷の主人を疑ってるんです。これ食べさせれば絶対考え変わる」
イコール、持ち帰らせてくれ。
このクッキーは、あいつらが抱くところの偏屈親父のイメージとは似ても似つかないだろう。
美女、紅茶、手作りのクッキー。 ほら、これならすんなりいく。
しかし彼女は困ったような顔をして、申し訳なさそうにするばかりだった。
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