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「素敵な仕事ですね。幸せをあげる仕事だ」
「ええ……私は、着ている姿を見に行けないから。こうして写真で教えて貰うんです。いい結婚式になったとか、素敵なドレスで気に入ったとか、人づてに教えて貰って……それでも、やっぱり嬉しいですね」
直接言ってもらえたら、どんなに嬉しいだろう。
言外にそう訴えているような気がした。
彼女が、ドレスを着た人から直接感想を聞けない理由はやっぱり『傾き』にある。
その原因は三半規管だと言っていた。
それが解消されれば、彼女は普通に暮らして、普通に仕事して、お客さんから直接感想を聞くことだってできるようになるんじゃないのか?
「……不謹慎かもしれませんけど、三半規管がおかしいのって治らないんですか……?」
思い切って聞いたが、また彼女は黙って俯いてしまう。
治らないのか?
しかし、やがて消え入りそうなほど小さな声で呟いた。
「手術すれば治る可能性はある……らしいです」
「それならっ」
「駄目なんです」
俺の言葉を強く遮って、叫ぶように声を吐き出す。
その否定の言葉は、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「私はもう、駄目なんです」
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