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足音がしたのでそっちを向くと、どこか影の落ちた表情の彼女が戻ってきたところだった。
「これを……お友達に」
丁寧なラッピングに包まれたそれを受け取る。
彼女の作ったクッキーだ。
……もう、熱は冷めていた。
これを渡されたということは、遠まわしに『帰れ』と言われているような気がする。
俺と目を合わせようとしないまま、吉村さんは独り言のように呟いた。
「ごめんなさい、変な態度をとって……ちょっと、考えたくて」
何を?
聞けなかった。
彼女が周囲に対して作っていた壁は、俺が思っていたよりも高く、堅い。
ほんの少しだけ開けられた穴から覗いていただけに過ぎなかったんだ。
いつかそれを全てとっぱらって、打ち明けてほしいだなんて夢物語だろうか。
「俺も、無神経な事を……すいません。もう帰りますね」
「はい、さようなら……」
今回、彼女は玄関まで見送ってはくれなかった。
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