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『はい』
この数日ですっかり聞きなれた、上品で優しい声。
そのたった一言だけど、いつも通りに聞こえてちょっとだけ安心する。
「あのっ……俺です、森です。昨日はすいません」
『あっ……』
インターホンの向こうの彼女が息を飲むのが分かった。
もしかして、俺に来て欲しくなかった?
来ると思っていなかった?
俺にしては珍しくネガティブな憶測がぐるぐると回る。
こんな気持ちになるのは初めてだ。
彼女に会ってから、俺の中も何かが色々変わっていっている気がする。
『……今、開けます』
たっぷりと開けられた間のあとに、細い声が返ってくる。
また形容しがたい音とともに、門が左右に開いた。
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